立っているのも辛いのか、しゃがみこんで笑うナイガット。
その横で、同じくしゃがみこみ笑うコンスールが、ツァントへ問いかける。
「なぜ笑う?」
真剣に言った台詞を笑われ、少しむっとして唇を尖らせたツァント。
その姿は、もうすぐ二十一になるというのに少々大人気ない。
けれど、ひたすら笑っている二人も、二十五の歳にはとても見えない。
「だって、守るもなにも彼女は……」
「あなたの妹君ではないですか」
そう言って二人はまた笑いだす。
そんな二人を、しばらく無視していたツァントだったが、いい加減我慢の限界が来たようで、目をつり上げながら怒鳴ろうとした。
「ぅ、うるさいっ。お前達、いい加減にだま
「あなたたち、その笑い声うるさいのではなくって?」
……ですよねー」
したのだが、ツァントの怒鳴り声よりもさらに存在感のある声が寝室に響いた。
決して大きな声ではないのだか、なぜだか無視することを許さない、大人の女性よりも少し高い声。
「おはようございます、ミノルツァ様」
そんな声に、しょぼくれたり(←ツァント)青ざめたり(←コンスール)せず、にこやかに朝の挨拶をする強者がいた。
「おはようございます、ナイガット護衛官」
挨拶されたミノルツァは、そんな強者──ナイガットをちら、と見て挨拶を返した後、まっすぐにベッドの方を見て言った。
「おはようございます、お兄さま」
ナイガットに返した時とは、全く違いニッコリと。
腰まであるクリーム色の髪が、軽く顔を傾げた拍子にさらりと揺れ、兄と同じ色の瞳は柔らかく細められている。
昔、今の王を一目惚れさせた王女の血を引いているのも頷ける、繊細で美しい容姿だった。
「お、おはよう、ミノルツァ。今日もい
「今日もいい朝ですわね、お兄さま」
痛かったんだけどなー……。 そうだな」
美しいのだが、少し人の話をさえぎるる癖があった。
ただ、悪気は全く無いので、誰も何も言えない。
「そうだわ。私、お兄さまを起こしに来たんですのよ。なのに、お兄さまったら素晴らしいわ。ご自分でお起きになれるのですもの。私など、侍女に起こしてもらわなければ起きられないというのに」
この早口でまくし立てる演技も。
それを見て、コンスールがこっそりとナイガットに問う。
(なぁ、ナイガット。ミノルツァ様ってば、なんで毎日あんな起こし方しに来てるのに、嘘付くんだろうな)
「って、ぅわあぁ」
が、あっさり気づかれ、振り向いたミノルツァにがっつり睨まれてしまった。
美人なだけに、怖かったようだ。
25歳が、15歳に迫力負けしている。
さらに青ざめたコンスールの横で、ナイガットは苦笑していた。
「ん? どうした、コンスール」
先ほどのやり取りに気づかなかった様で、ミノルツァ越しにいるナイガット達へ視線を送った。
「いいいいいやっ、何にもないですよ。何にも」
「そうか? まぁいいや。 それより、ミノルツァ」
「はい、なんでしょうかお兄さま」
きらきら、という表現が似合うだろうか。
それほどに瞳をきらめかせて、ミノルツァはツァントの呼びかけに反応した。
そして、それを見てツァントは言いにくそうに、口を開いた。
「あー、そのな。もう目も完全に覚めたんで、そろそろ着替えようと思うんだ……」
だからはずしてもらえないか。
そう言おうとした瞬間だった。
かぁーっ、っとミノルツァの顔が一気に真っ赤になった。
「ミノルツァ……?」
そんな赤くなった妹の顔を、怪訝そうに見つめていたのだが。
「し、失礼いたしますわ。お兄さま」
ツァントの疑問に答えることなく、いきなり身を翻すと、そのままツァントの寝室から出て行ったのだった。
「……なぁコンスール」
「聞かないでください」
「ナイガット」
「さぁ、私にも聞かないでいただけますか」
「……」
なんとも言えない雰囲気が漂う部屋。
三人は、ミノルツァの出ていった扉を見つめながら、何を思ったのだろうか。
「ミノルツァは毎日、一体何をしたいんだ……?」
それから毎朝、今日のことが繰り返されていたのかどうかは、四人だけが知ることだ。