眠れぬ刻
夜も更け、元気な子ども達は寝静まり、 疲れた大人達が酒場で酒に溺れ出す頃。
「そっちへ行ったぞ!コンスールっ抑えろ」
ノークの王城がある都では、一つの喧騒が起きていた。
「よし任せろ!……来た来たっと。さぁ観念して下さいよっと」
コンスールと呼ばれた男は、楽しげな声を出して前から走ってくる人影を、その場で待った。
気付かずに、彼の傍まで走って来てしまった人影は、悲鳴をあげた。
「うそっ、何でお前までいるんだよ!?」
走ってきた人影はまだ若い、20前後の青年であった。
栗色の少し長い髪を、後ろで一つに結んでいる。
走って息を切らしている今も、どことなく柔らかい雰囲気が彼を包みこんでいる。
がたいの大きい、城兵の格好をした男二人に追い掛けられている彼を見て道ゆく人は一体何事かと目を丸くする。
青年は、誰が見ても好感をもつような、整った顔立ちの中に、どことなく愛嬌を持っている青年だった。
とても城の兵に追いかけられるような人間には見えない。
兵士に追い掛けられるなど信じられなかったのだ。
「今だ!押さえろっ」
青年が動揺している隙を突いてか、先程コンスール、と名を呼んだ城兵の男が、此方へ走りながら、怒鳴る様に言う。
「はっ、しまった! ──っぶ」
思わず立ち止まっていた青年は、その声に我に帰り逃げ出そうとするが、気が付いた時には既に遅く、青年は自分を追いかけていた方の城兵‥‥コンスールと呼ばれた男の、厚い抱擁を受けていた。
「はいはい〜っと。つっかまえた!」
腕の中でバタバタと暴れる青年を屁ともせず、相変わらずのにこにこ‥‥いや、にやにや顔でコンスールは言う。
「ちくしょう!離せよっ」
顔に似合わず、乱暴な言葉づかいをし、尚も暴れて逃れようとする青年だが、前から来たもう一人の城兵の姿を認めると、諦めたように体から力を抜き、溜め息をついた。
その間にも男は、青年へと近付き、肩に手を添えると言葉を区切りながら、ゆっくりと言った。
「さぁて、捕まえましたよ。ツァ・ン・ト・さ・ま」
「‥‥‥ナイガット」
「心配したんですよ?急に姿が見えなくなったものですから」
「そうそう」
もう一人の男、ナイガットの言葉に、コンスールが賛同する。
「お前達……絶体そんなこと思ってないだろ。ナイガット、お前は顔が緩んでるよ」
一気に疲れた顔で話す青年。いや、ツァント。
そんな彼の言葉を聞き、楽しそうに唇の端を吊り上げるナイガット。
そしてナイガットとコンスールは、息をぴったり合わせこう言った。
「「よくお分かりで。殿下」」
今夜はゆっくり眠れる筈だったのに、城から抜け出した王子を探し回らなければいけなかった彼等の、皮肉だったことは、当然ながら間違いない。
この後、城に帰った(連れ戻された)ツァントが、二人に小言を言われながら眠ったのかどうかは、本人たちにしか分からない‥‥‥。