物語の結末は
『王子様が大好きだった人魚姫は、
海の綺麗な泡となってゆっくりと日の光を受けながら、消えてゆきました』
パタン。
色白の、長く綺麗な指が《人魚姫》と書かれた本を閉じた。
そして、隣に座っている少女を見て、驚きの声を上げた。
『どうして泣くの?』
『だって、悲しいじゃない』
『どうして?人魚姫は、王子様が大好きだったから、王子様に死んで欲しくなくて、泡になったのよ。
……それなのに、どうして悲しいの?』
女性の美しい顔は、少女の泣く意味が全くわからない、といった様子で首を傾げている。
少女は、女性の問いかけに答えようとする。
しかし、五歳になったばかりの少女には、上手く伝える言葉が見つからなかったらしい。
しばらく首を横に振るばかりで、言葉を発しない口はギュッと結ばれていた。
そして、ようやく気持ちを表すにふさわしい言葉を見つけたのか、
少女はゆっくりと自分の言葉を確認するかのように、話し出した。
『だってね、だって人魚姫は王子様のこと大好きだったから泡になっちゃったけど、
お別れする前に泡になっちゃったから、バイバイって言えなかったんだよ』
そこまでいうと、まるで自分が人魚姫になったかのように、
別れの言葉を交わせなかったことを後悔するかのごとく、再び泣き出した。
女性は、泣き止まない少女に少し困っているような、
それでいて泣き出した理由がわかり安心したような顔をして、また少女へ語り始めた。
『そうね、バイバイって人魚姫が言えなかったのは、悲しかったでしょうね』
『うん、か、悲しい〜』
少女は、泣きながらも女性の言葉に同意する。
女性は泣きじゃくっている少女を抱き上げ、膝の上に乗せて言う。
『でもね、人魚姫も悲しかったでしょうけど、
人魚姫のことをお友達だと思ってた王子様も、悲しかったんじゃないかしら?』
『どうして?』
『だって、朝起きるといつも一緒にいた人魚姫がいないのよ。
王子様寂しくなかったかしら』
女性の膝に乗って、泣きじゃくっていた少女は、ふと泣き止み女性に尋ねた。
『王子様、泣いちゃったかな?』
『ん〜、泣いちゃったかもね』
『それじゃあ、人魚姫は大丈夫だったんだね?』
『えっ!?』
女性は、突然のその言葉に意味を掴み損ね、どういった意味なのか少女に尋ねようか考えた。
けれど、少女が話し始めたので聞いていることにした。
『王子様が、人魚姫がいなくなって悲しんだのは、人魚姫が好きだったからでしょ?
だから、大丈夫だったんだよ!どっちも、相手のことが好きだったんだよ。ね?』
そう言うと少女は二コッ、と笑った。
女性は今の言葉を聞き、五歳の少女が考えた、物語の結末の結末に驚いた。
そして驚きが治まると、次にはこの、
泣き疲れて眠ってしまった少女―――愛娘を、ベッドの上にそっと横に寝かした。
それから、まるで歌うような優しい声で、そっと呟く。
『教えてあげる。本当はね、王子様はね、私が泡になる直前に見つけてくれてこう言って下さったの』
《私が本当に愛していたのは君だよ。やっと、やっと、わかったんだ》
『そして私は人間になることが出来て、可愛い我が子。あなたを授かったのよ』
女性――かつて人魚だった――は月の明りに照らされながら、その美しい顔を幸せそうに微笑ませていた。