「待てぇ!!」
「待たんかぁ」
走る人影が、三人。
怒鳴っているのは、やや離れて後を走る二人の男だ。
前を走る男を、追っているのだろう。
対して、追われている方の男はというと‥‥。
「アホなこと抜かすな!!待てと言われて待つ奴がおるかぁ」
追われる側にとっては、お決まりといえばお決まりの台詞を吐きながら、一向に止まる気配は無い。
いくばくか、待て、待たん、を三人は叫びながら走っていたが、
「ちっくしょう!あいつ、逃げ足、は、早ぇ」
追いかける男二人の内、一人。身長はあるのだが年のせいか、心なし腹が出てきている男の走る速度が、徐々に落ちていく。
「おい、止まるなよ!?わしら、あの男を逃がすわけにはいかんのやからな!!」
「わかっとるわ!!け、けど、俺‥‥無理や」
「なに言っとんじゃ!!走れ!動かすんや、足をっ」
唾まで飛ばしながら、腹の出た男を叱咤する。
が、
「あぁぁぁああぁぁぁ!?な、何してくれんねん!!」
次の瞬間には、叫んでいた。
少し離されはしたが、まだ追いつける距離で前を走る男が、急にその背に背負っていた荷を、後へ放り投げたのだ。
荷は、一直線に後方へ飛んでいく。
堪らないのは、後を追っていた男たち二人だろう。
「ぅおおお!避けろっっ
明らかに本名でなく、渾名だろう名を呼びながら叫ぶも、何故かその腕は腹の出た男――豚治と言うらしい――を、荷が飛んで来る位置へとぐいぐい押している。
「ちょ、ちょっと待てお前!その腕離せ!避けれるもんも避けられへんやないか」
声が聞き入れられたのか、緩くなった腕を押し返しつつ、豚治は、少し青くなりながらも横へずれていく。
「ぶうっ!!!」
‥‥少し、横へずれるのが遅かったようだ。
綺麗に豚治の顔面に、荷がぶつかった。
その拍子に、豚治ともう一人の男の足が止まった。
「‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
豚治は、荷を。もう一人の男は、豚治を無言で見ている。
その時だった。
「く、くく‥‥あははははは!!!」
少し離れた場所で、追われていた男も足を止め、二人を見ながら笑っていた。
いや、笑い転げていた。
「め、命中しよった!!はは、しかも‥‥しかもお前、ぶうっ、って!!!豚かよぉ!?」
どうやら、荷が顔面に命中したことよりも、その時の呻き声がツボに入ったらしい。
まだ、笑いが止んでいない。
「う、うるさい!!黙れっ」
「無理やぁ。もぉ、おもろすぎて、くくく。ぶっ、って‥‥しかも豚治て‥‥どんな渾名やねん」
荷がぶつかったからなのか、怒りから来るものなのか定かではないが、豚治の顔は赤くなっている。
喋りながら‥‥というより、笑いながら喋る男に、豚治の怒りは頂点に上ったようだった。
「おいお前!!いい加減、笑うん止めぇ。いつまでもええ気でおれる思たら、大間違いやぞ!?」
顔に当たり、地面に落ちた荷を踏みつけながら、豚治は続ける。
「それからな、もう一個忠告や!!!