病院

「ちょっと、そこのあなた。 困りますよ、そんなところに入っちゃ」

僕の後ろから、女性の声が聞こえた。
後ろを振り向くと一人のナース──30代半ばだろうか──が、恐い顔をして立っていた。
(偉そうだな)
名札を見ると『総主任 田山 涼子』とあった。
(……偉いのか)
威圧的な態度も、女性の立場を理解するとなぜか納得してしまった。

「あなた、聞いてますか? ここは関係者以外立ち入り禁止なんですよ」

(おっと、やばい……全然聞いてなかった)
立入禁止ね。 そんなこと言われなくても、このドアを見ればデカデカと 書いてあるから分かるのに。

「はぁ、ここに書いているので、知ってますよ」

素直に言うと、睨みつけられてしまった……うへっ。

「でしたら、なぜ入ろうとするんですか。 普通入ろうとしませんよ、こんな所」

田山さんが疑わしげな目つきで、僕を見てきた。
そんな目で見られても、僕はここに用事があって来たんだからしょうがないじゃないか。
院長から聞いてないのかな。 総主任って偉い立場っぽいけど。
とりあえず僕は、名乗ることにした。

「実はですね、僕はこういう者です……っと。はい、名刺」

いつも胸ポケットに常備している名刺を一枚、田山さんに渡した。
すると田山さんは、それを受け取らずにそのまま読み始めた。

「保田お祓い事務所 保田拓郎。 ……お祓い屋が、何の用ですか?」

あ、さらに怪しまれた。 しかもちょっと距離おかれたし。
そりゃそうか、こんな怪しい仕事してる奴。
(速攻で追い出されないだけましだよな)
酷いときには、警察まで呼ばれるから、この仕打ちはでもない。

「もちろん、お祓い屋なのでお祓いをしに来たんですよ」

そう言って僕は、ここの院長から最近、病院のある部屋から何かの泣き声や、うなり声が聞こえるのでお祓いしてほしい。 と頼まれたことを田山さんに話した。
やはり初耳だったのだろう。 僕が話している間、黙って聞いていてくれていた。

「それで、その声がここからすると分かったので、今からお祓いしようと思っていたんですよ」

ここ、と言って僕は目の前の部屋──霊安室を指さした。
霊安室なんて、なんてべたな場所だよほんと。
(そういえば)
ふと気になって聞いてみた。

「もしかして、田山さんはここに用事がありました?」

だったら申し訳ないことをしたな。
女性ならきっと長い間いたい場所じゃないのに。

「……なんです」
「え、すみません。 ちょっと物思いに耽ってしまって。 なんですか?」

また話を聞いていなかった。
慌てて謝って、聞き返すと

「私の、私の寝床なんです。そこ」

寝床……。
霊安室が寝床?
と、いうことは……。